2010年 白水社
マルカム・ラウリー (1898年-1989年)
イギリスの小説家、詩人。ニューブライトンに生まれる。
ハーバード大学在学中に第一次世界大戦に従軍。戦後はこの時代の多くのアメリカの若い芸術家・文学者たちと同様にニューヨークやパリでボヘミアン生活を送った。1930年代以降はマルキシズムに傾倒、多くの政治的エッセイも残しているが、後世に彼が与えた影響は圧倒的に「文学的」なものである。代表作の『亡命者の帰還』(1934年)は「狂騒の1920年代」とも呼ばれたこの時代の克明な記録であり、いわゆる「失われた世代」の精神的彷徨を生き生きと描いたエッセイとして名高い。
大学卒業後、アメリカ人女性と結婚し、各地を転々としたあとメキシコに移住。3最初の妻と別れたのち40年に再婚、二度目の妻とメキシコ滞在中から書き進めていた本作。二つの火山を臨むメキシコ、クアウナワクの町で、妻に捨てられ、酒浸りの日々を送る元英国領事を主人公に、1938年11月の”死者の日”の一日が描かれています。章ごとに異なる視点で描かれた本作は、一読しただけでは何が起こっているのか理解しづらい、難解で複雑な内容ではありますが、酩酊状態の主人公の脳内を映したような浮遊感のある独特な視点が魅力となっています。
一人の男の破滅を描いた本作は架空の物語ではありますが、著者の生きざまを反映した自伝的作品ともいえる1冊です。