2006年 みすず書房
中井久夫 (1934-2022)
精神医学者。奈良県生まれ。
1952年京都大学法学部入学、病院勤務などを経て、1975年より名古屋市立大学医学部助教授、1980年神戸大学医学部教授。
大学卒業後、最初はウイルス学を研究するが、30代に精神医学に移り、当時まだ治療法の確立されていなかった統合失調症(精神分裂病)の研究に取り組む。精神と身体の双方を、詳細に観察して読みとった患者の症状を時系列でグラフ化することから、寛解(回復)過程に関する研究を練り上げ、いくつかのフェーズの変移として病を位置づけることに成功した。また、その研究過程で生まれた、枠づけされた画用紙に風景の要素を配置させる「風景構成法」は、患者心理に悪影響をもたらすことの少ない診断法、芸術療法として高い評価を得ている。その後も、統合失調症論、治療論を中心に多数の論文を発表し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の研究にも取り組み、日本の精神医学の第一線にたつ。
本書は、人間の根源的な能力である「記憶」のもつ意味について、さまざまな方法で迫った1冊です。自らの経験を踏まえ、臨床の現場から、哲学・文学・心理学・認識学・犯罪学まで、多岐にわたる領域を横断し、記憶をめぐる理論を発展させ、なおかつあるゆる領域への問題提起ともいえる内容になっています。